ノウハウ

経理はAIによってなくなる?今後の経理の動向について解説

栗田 謙人
更新日:2023/08/28

近頃のAIの急速な発達により、経理の仕事がなくなるのではないかと不安に感じる人は多いでしょう。AIは優れた処理能力を持つものの、仕事を任せられる部分と人間が行わなければならない領域があることも事実です。人間が主導となってAIを上手に活用することで、経理の仕事がさらに充実すると考えられるでしょう。

この記事では、経理の仕事内容を踏まえた上でAIとの共存の仕方について解説します。

目次
  • そもそも経理の業務内容には何がある?
  • 経理の仕事はAIによってなくなるのか?
  • 経理がAIによってなくならない理由
    • ①AIはあくまでツールであるため
    • ②経理業務は複雑性が高いため
    • ③経理に限らず、将来的に人間とAIの共存が重要視されているため
  • 経理の中でAIによってなくなる可能性がある業務とは?
    • ①簿記入力業務
    • ②請求処理業務
    • ③経費処理業務
    • ④申請手続き業務
  • 経理として今後も活躍するためにはどうすればいい?
    • ①専門性の高い知識やスキルを身につける
    • ②AIやIT技術への理解を深める
    • ③コミュニケーション能力を高める
    • ④顧客や社内のニーズに合わせた業務改善の提案をできるようにする
  • AIにより効率化する経理業界における今後のキャリアパス
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そもそも経理の業務内容には何がある?

経理は主に会社を出入りするお金の記録を行い、主に以下のような業務に携わります。

  • 売上・仕入れ管理
  • 給与管理や計算
  • 決算書作成

健全な会社経営には、いつ・どこで・誰が・何のために会社のお金の出し入れを行ったかという情報の見える化が必要です。経理にはお金の情報を決められた方法によりわかりやすくまとめ、経営陣に報告する役割があります。

お金の情報の作成には会計の知識が必要である上、日々発生する数字の管理にはある程度の時間を割かなければなりません。複雑化する業務を改善する取り組みの一環として、近頃は会計ソフトや給与計算システムなどで仕事の自動化を行う企業が増えています。今後はさらに性能の高いAIの台頭により、経理業務の自動化が進むと考える人も少なくないようです。

経理の仕事はAIによってなくなるのか?

経理の仕事はAIによって全て奪われることはなく、むしろチェック作業が増え人間の仕事が増えると考えられます。AIは日本語の学習量がまだ少ない状態だとされており、間違った情報から答えを作ってしまうケースがあるのです。

そのため、AIが導き出した情報が正しいか確認するには、専門知識を持った人間がダブルチェックしなければなりません。経理業務を全てAIに任せてしまうと、かえって今よりも手間がかかる可能性があります。

ただ、数値の計算やデータ入力などの単純な処理については、既に会計ソフトが活用されている通り今後も経理の仕事をスムーズにしてくれるはずです。現状ではAIに任せられる部分と、人間が行った方がいい領域との区別が重要となるでしょう。

経理がAIによってなくならない理由

AIが発達しても経理業務がなくならないとされていることには、大きな理由があるようです。現状でのAIの特性と、経理業務の複雑性を知ると理解しやすいでしょう。

①AIはあくまでツールであるため

経理がなくならないとされる理由の一つに、AIはあくまでツールに過ぎないことが挙げられます。AIはそのものが知識を持っているわけではなく、プログラムされたルールに従って自動処理を行うツールです。AIが自動処理を正しく行うには、参考となる大量のデータが必要となります。データの用意は人間が行わなければならない上、情報量が乏しいと正確な答えは導き出せません。

また、AIによって質問に対する答えが出たとしても、参考にしたデータの根拠がわからないという欠点があります。根拠が不足していると最終的な判断を誤り、企業経営が間違った方向に進む可能性もあります。

数字の自動処理はAIに任せても良いですが、経営方針の決定のような重要な判断には不向きであるといえるでしょう。

②経理業務は複雑性が高いため

ルーティンワークを得意とするAIにとって、経理業務は複雑性が高いと考えられます。経理業務において、AIが処理する情報全てが電子化していれば問題はないでしょう。

しかし、交通費には紙の領収書の発行が一般的であるように、日本ではペーパーベースでのやり取りが依然として多いことが現状です。AIに処理させるために全てのデータを電子化する作業は、コストがかかるため今すぐの実現は難しいと考えられます。

また、イレギュラー対応がある場合、紙の書類でないと処理が難しいケースが多いものです。データの入力ミスや遅れての処理がある場合、一部だけを手作業で行わなければなりません。経理を全てAIに任せるには、現行の業務方法では課題が多いのです。

③経理に限らず、将来的に人間とAIの共存が重要視されているため

将来的に人間とAIの共存が重視されていることも、経理の仕事がなくならないとされる理由の一つです。前述してきた通り経理業務の全てをAIに任せるには、導き出される答えの不確実性から限界があります。

ただ、ルーティンワークを得意とするAIには、業務の効率化や品質向上など利用のメリットがあることも事実です。AIに全てを任せるのではなく、得意分野を理解し人間と仕事を分担することが最も重要視されています。

人間が持つ創造性や柔軟性、コミュニケーションスキルはAIにはまだありません。会社の数字だけでなく人の意見を汲み取り、経営に生かすためには臨機応変な対応が求められます。今後AIを活用する場合が増えても、重要な局面では人間が最終判断を下すことには変わりないでしょう。

経理の中でAIによってなくなる可能性がある業務とは?

経理の仕事の中でも、AI化によってなくなるとされる業務について気になるところです。すでに電子化されている業務は、今後さらに手間が減り経理のチェックが少なくなると考えられるでしょう。

①簿記入力業務

簿記入力業務は、すでに会計ソフトで処理できることから経理の中でもなくなる業務とされています。一般的に、手作業の簿記は以下の流れで行います。

  • 仕分けを行う
  • 総勘定元帳に転記する
  • 試算表を作成する
  • 決算書を作成する

会計ソフトを使う場合、仕分け時点での手入力は必要なものの、ミスがないか確認すればあとの転記や表作成は自動化が可能です。Excelデータを取り込むことのできる連携機能を利用すると、作業がさらに楽になります。AIは計算や表作成などルーティン的な作業が得意であるため、今後は人の操作がほぼなくても簿記入力ができると考えられるでしょう。

②請求処理業務

請求処理とは、会社のサービスや商品を買った人から代金を回収する処理のことです。通常は以下の流れで行いますが、書類のペーパーレス化が進むと請求書はなくなるだろうといわれています。

  • 請求内容の確定
  • 請求書の発行・送付
  • 入金確認
  • 未払金の回収

日本での請求書の発行方法は、依然として紙媒体であるケースが多いものです。現状は紙書類と電子データが混在する過程にあるため、作業に手間がかかることが課題とされています。請求業務の大部分でAIによる自動化が図られると、工程がシンプルになり経理担当者の負担が減ると考えられるでしょう。

③経費処理業務

経費処理業務は簿記入力の流れと似ているため、経理の仕事が少なくなるとされています。

経費とは従業員が社外で営業する際にかかる、出張費や交際費などの業務に関係する支出のことです。一般的に、経費はいったん従業員が立替を行うケースが多く、後から会社から支払いを受けます。

領収書を受け取ったら、金額や使途のチェックを行い従業員への支払いを行うことが経理の仕事です。また、会計ソフトへの金額入力を行い、会社のお金を何のために使ったかを記録しておきます。紙の請求書の電子化や仕分けデータの取り込みはすでに行われていますが、ルーティン作業としてAIに任せる部分が増えると考えられるでしょう。

④申請手続き業務

申請手続き業務とは経費処理に関連する内容でもあり、電子化によって経理の仕事としてなくなる可能性があります。経費を処理するためには、従業員からの申請が以下の流れで承認されなければなりません。

  • 従業員が経費を申請する
  • 上長が申請内容をチェックする
  • 経理が申請内容をチェックする
  • 経理が精算処理を行う

申請が処理されるまでにはいくつかステップがあり、従業員は上記の流れが完了するまで立替分の支払いを待つ必要があります。また、経理にとっても上長のチェックが滞っていると、処理が進まず非効率な時間が発生することも事実です。

申請手続きを電子化している企業は珍しくなく、チェック時間短縮によって全体進行がスムーズに進むメリットが挙げられています。さらに今後申請手続きのAI化が進むと手間が減り、経理が行う業務が必要最小限になると考えられるでしょう。

経理として今後も活躍するためにはどうすればいい?

AI化が進む現状を受けて、今後も経理が活躍するためにはどうしたら良いか気になるところです。人間とAIがそれぞれの得意分野を生かし、経理が企業の発展に貢献する姿勢が必要となるでしょう。

①専門性の高い知識やスキルを身につける

経理業務における専門性の高い知識や、スキルを身につけることが求められます。AIは単純なルーティン作業やシンプルな決定を行うことを得意としますが、最終的なチェックには人間の目が必要です。計算や表作成などは自動化できても、もととなるデータに間違いがあれば書類として成り立ちません。AIが作ったデータのチェックを行いミスに気づくためには、経理が専門的な知識やスキルを持っている必要があります。

具体的に身につけるべきスキルとして、会計や簿記の知識が挙げられるでしょう。会計や簿記の知識は、経理が仕分けを行ったり決算書類を作成したりする際に必要です。実際に手作業で書類を作れるレベルまで到達できると、AIの処理能力との相乗効果でさらに充実した経理業務ができると考えられます。

②AIやIT技術への理解を深める

人間とAIが共存する社会を見据え、最新技術への理解を深める姿勢が求められます。経理業務はすでに電子化された部分が多く、処理ソフトを導入し始める会社も増えています。ただし、人間が処理ソフトの使い方に追いついていなければ業務効率改善には繋がりません。AIやIT技術への対応には、経理が電子システムの使い方を十分に理解している状態が求められます。

また、経理業務が便利になっていく傍らで、AIやIT技術を取り扱う上での注意事項にも気を配る必要があるでしょう。AIやIT技術の発展には勢いがあるものの、ウイルス感染や情報漏洩の恐れは完全にはなくなりません。使い方によっては会社の機密情報が漏えいする可能性があるので、取り扱いには十分に気をつけるべきです。

③コミュニケーション能力を高める

人間の得意分野であるコミュニケーション能力の向上は、経理の仕事の充実に繋がります。AIは単純なルーティンワークを得意とする一方で、柔軟な判断力を比べると依然として人間の方が有利です。経理には社内外の人とのコミュニケーションを重視される部分が多く、時には会社の意思決定に関する重要な判断を求められることもあります。課題解決やビジネスの改善方法を提案できるのは、コミュニケーションスキルを持った人間です。

経理がコミュニケーション能力を高めるためには、普段から会社の課題について自分の考えを持つことが必要でしょう。人から意見を求められた際に自分の意見を堂々と述べることで、議論を行うことに少しずつ慣れていくと考えられます。

④顧客や社内のニーズに合わせた業務改善の提案をできるようにする

経理が社内外でニーズに合わせた業務改善の提案ができると、周囲の人から喜ばれると考えられます。組織に所属している人間には、自分の業務にとどまらず周囲の人との関わりにも気配りが必要です。顧客や社内で仕事が増えすぎて困っている人がいたら、経理が率先して業務の改善提案をしてみましょう。AI化や自動化が進む経理担当者からの意見は別な部署からすると新鮮に感じられ、新たな視点の獲得に繋がりそうです。

周囲の業務改善が図られると、自ずと経理の仕事もスムーズになっていきます。全体の効率がアップし、会社としてより高度な業務に携わることができるはずです。経理のAI化を上手く利用して、会社になくてはならない存在になることも一つの手です。

AIにより効率化する経理業界における今後のキャリアパス

AI化が進む経理業界において、今後のキャリアパスが気になるところです。AIが発展していくことを経理業界の強みと捉えることで、専門家としてのキャリアが開けると考えられます。

業務改善の専門家

経理の仕事がAIによって自動化していくことをポジティブに捉えると、業務改善の専門家としてのキャリアが開ける可能性があります。日々の処理から月末・年末作業と担当業務の多い経理にとって、今後の仕事の効率化は大きな課題です。AI化が進む過程を肌で感じられる経理担当者は、業界特有の環境を強みと捉えることで業務改善のアドバイザーとしての道が考えられます。AIに任せられる業務を見極めつつ、人間が担当すべき領域の生産性向上を図ることで、組織の成長に貢献できる人材になれるでしょう。

経営戦略の専門家

会計や財務分析を通じて、経営戦略の専門家としてのキャリアが考えられます。AIの発展で経理の業務は少しずつ便利になるものの、人との柔軟なコミュニケーションをとれるのは人間だけの強みです。また、経営課題に対して企業に合った解決法を導き出すには、会社の数字を理解した上での意見の交わし合いが必要となります。

経理が業務の処理能力だけでなくコミュニケーションスキルや会計・財務分析の知識を高めることで、判断力を持つ人材として活躍できるはずです。

経理がなくなることはない!スキルを磨いて経理への転職を狙おう

AIの発展によって業務がスムーズになるものの、経理自体がなくなることはありません。ただ、今後の経理がAIと共存していくためには、専門知識の習得が求められます。経理に興味がある人は、スキルアップを図りつつ転職を視野に入れてみましょう。

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株式会社WARC HRtech CSマネージャー 栗田 謙人

2021年にSYNCAのカスタマーサクセスとしてWARCにジョイン。コーポレート領域に特化し、求職者の転職支援から企業の採用支援の双方に従事し、BizDevとしても機能の企画立案などに携わる。